クリエイティブ会社で暗黙知を共有する方法。デザインファームDONGURIの『デザイン思考』実践事例(後編)

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私たち株式会社DONGURIは、「デザイン思考」を武器にしたコンサルファームです。クライアントのコンサルティングでは、何かしらのクリエイティヴのアウトプットに落とし込むことも多いため、社内には多くのクリエイターを抱えています。

弊社のようなクリエイターを中核においた組織では、前編で述べたような「仕事における属人化」現象が顕著に起こることが多く、属人性が高くなりがちな業界といわれています。

そのためクリエイティヴ型組織では、基本的には社内トップクリエイターがすべてのプロジェクト管理を行い、パワーマネジメントによる組織運営を行う傾向にあります。そうした環境では属人性が許容されがちで、暗黙知共有は難しいという考えが浸透していることが多いでしょう。

弊社においてはこの反対のスタンスで、デザイン思考を活かすことで属人性を脱し、人を育成していく方法にフォーカスをしています。

デザイン思考は、論理的に「人の導線」を改善する方法であり、その実践を組織デザインにおいても行っているのです。今回はデザイン思考による組織改革について、弊社で行った事例をもとに紹介していきます。

<執筆>
株式会社DONGURI 代表ミナベトモミ
人の行動や導線を改善する「デザイン思考」を用いて、事業/商品開発を行い、多くのヒット商品を産み出している、デザインコンサルティングファームDONGURIの代表コンサルタント。(お問い合わせはこちら

納期を守り、素晴らしい創造性を発揮するデザイナーを育てるには


お客様のビジネス課題を発見し解決へと導く素晴らしいアウトプット、そして迅速な仕事のスピード。そんなスーパースターといえるクリエイターもいますが、それはひと握りのトップクリエイターであり、多くの人はそうではありません。

素晴らしい創造性のデザインはできるが、ビジネス要件や納期を守らない。作業をするのは早いが、創造性はそこそこ。こうした人材が多くのクリエイター組織の主戦力であり、何でも持っている人材のほうが非常にレアだと言えます。それは弊社においても過去そうした状況であり、結局は特定の優秀層の属人性に支えられて組織が成り立っていた状況でした。一般的にクリエイターという職種の暗黙知共有は非常に難しく、属人性は解消できないと思われがちです。

ただ、行動パターンや思考方法のパターンは真似できます。デザイン思考で導線を設計することで、暗黙知の共有がなされ、スーパースターと同じような能力を持った人材を生み出せるのではないかと私は考えています。

では、そのためには何に取り組めばいいのでしょうか。まず私が始めたことは、デザイナーの業務における2つのキーワード、「品質」と「時間」に着目し、それぞれの要素を一定水準満たしているプロジェクトの分析を行いました。

「時間をかけるほど良いデザインができる」は間違っている


まずは、デザイナーにおける「時間」と「品質」の関係について見ていきましょう。一般的なイメージでは、デザインは創造的な仕事であり、品質を向上させるには潤沢な時間が必要だと考えられています。それが故にクリエイターは価値を生み出すために時間にルーズになりがちで、「時間=品質」は相関関係があると信じられています。

しかし、弊社において社会に波及されたり、多くの賞を受賞したプロジェクトが、有り余るほどの時間があったかといえば、決してそうではありませんでした。

もちろん、一定水準以上の時間の余裕は必要であるものの、ある水準以上の時間を活用したときに、「時間=品質」が比例していないことが明らかになったのです。面白いことではありますが、非常に悩んで時間をかけて練り上げたものが品質が高いかと言えばそうではなく、高い評価を受けたものは、悩まずに時間をかけずにできたものが実は多かったのです。

なぜこうしたことが起こるのでしょうか。私は疑問に思い、トップクリエイターの時間の使い方を観察してみました。すると、高い品質のアウトプットを生み出すには、仕事のプロセスが大切だということがわかったのです。

基本的にデザイナーは作業をPC画面上で行います。しかし、高い品質を実現したプロジェクトでは、ソフトを使う前に、必ずどのようなビジュアルを作るか自分の中のイメージを明らかにするプロセスを踏んでから、手をつけていました。

逆に低品質のプロジェクトほど、自分の中でビジュアルメイキングをする上でのイメージを明確にせず、計画を立てないまま、とりあえずPCを触り、画面上で悩んでいるケースが多く見られました。

また面白いことに、ややオペレーションスキルが未熟であっても、想像的の豊かなデザイナーほど、作業をする前にどのようなデザインにするかをイメージしていました。彼らは「計画に落とし込む力」に優れているのです。

このように同じ作業時間であっても、いきなり手を動かすのではなく、高品質のアウトプットをあげるためには、事前にイメージを明確にする「計画性」が重要なことが明らかになったのです。

品質を上げるために、デザインのイメージが妥当かどうかチェックする


弊社ではこの分析結果に着目してからは、手をつける前のデザインイメージの妥当性のチェック工程を厚くするようになりました。コンセプトを作る能力が高いプレイヤーを相談役に設定し、必ずプレイヤーが本格作業に着手する前に、イメージについて相談しながら決定できるようにフローを整備します。

その上で、どのような全体イメージにするのか、何をテーマにしているのか。などをディスカッションしながら、品質の向上を目指しました。このトレーニングにより、時間の大幅な削減と、品質の劇的な向上が組織レベルで実現できました。

また、アートディレクション(イメージ計画やデザインオペレーションの管理者)を多くのメンバーが行い、アートディレクションの妥当性をさらなる上位者がトレーニングするという体制が整っていることが、弊社の強みといえます。

そうすることで1人のアートディレクターがすべてのイメージ検討やオペレーション方法を考えるという従来の方法と違い、属人性を回避することができます。

さらに、一般的にデザイナーが一流と言われるオペレーションスキルを身に付けるためには、10年以上という長い期間が必要とされていますが、弊社ではこの期間も短縮しています。

例えば、品質を向上させるために最も効果的なスキルのみにフォーカスした上で、さらには優秀層のプロセスを擬似的になぞるトレーニングを継続的に実施。これにより、短期間で属人性をなくし、トップクリエイターと同水準の品質を実現することが可能となりました。

デザイナーにこそプロジェクトマネジメントのスキルが必要


続いて、デザイナーの長時間労働の問題についてお話しましょう。デザイナーという職業は、非常に労働時間が長いのが現実です。終電まで残業はざらで、泊まり込みや土日祝日出勤が日常的に行われていて、実際に不夜城と化している制作会社も少なくありません。そうした中で、時間をいかに効率的に活用するかはとても重要なテーマといえます。

よく、デザイナーから、「クライアントから無茶な修正が多い」「ディレクターとの連携が取れなかった」「素材が期日まで来なかった」という不満があがることが多く、そうしたことが長時間労働の問題であるように思われています。

この長時間労働は、プロジェクトマネジメントの技術をデザイナー自身が身に付けることで、ある程度は防げます。しかし、クリエイター職についている人は、一般的にこうした進行管理技術や、周囲へ行動を促す交渉・折衝は苦手な人が多いというのが事実。というよりも、クリエイターは、自分のプロジェクトを推進するために、周囲を巻き込んでマネジメントしていく発想自体がないように感じます。その理由は、そうした発想を得られるような環境や機会が与えられていないことが少なからずあります。

そのためDONGURIでは、デザイナーのプロジェクトマネジメントスキルのトレーニングにも力を入れています。実際にこのスキルを身に付けたことにより、プロジェクトが順調に進むようになってきました。作業時間が的確なメンバーほど、セルフスタートが可能で、ディレクターのようにプロジェクトの立ち上げを行ったり、周囲を巻き込んでマネジメントからプロジェクトを進めることができているのです。この動きを、さらに支援するため、継続的にDONGURIでは新しいプロジェクトツールの適用や、知識の共有を行っています。

プロジェクトのコンセプトを表す「キーワード」を共有する


次にディレクターとデザイナーのコミュニケーションの問題についてです。社内ディレクターからデザイナーに、プロジェクトの要件を伝える際、情報量が多すぎて伝わらない/理解できないというコミュニケーションエラーが度々起こりがちです。

私たちはこの問題を解決するために、プロジェクトの初期段階において、「共通キーワード」ないしは「コアとなるコンセプト開発」を行うフローをマストとしました。

この解決策は、情報量が多くてもデザイナーがうまく解釈できているプロジェクトを分析し発見したことです。ポイントは「コンセプトがキーワードで説明されているか」ということでした。

うまくいっているプロジェクトほど、メンバー内でわかりやすく覚えやすい、重要視されているキーワードがあることがわかりました。逆に遅延しているプロジェクトほど、コンセプトを表すキーワードが定まっておらず、共通言語がないことが多かったのです。

こうして見つけた「共通キーワード」と「コアとなるコンセプト開発」というフローを実施することで、プロジェクト内での要件のズレをなくすことだけでなく、大幅な工数の削減にも成功。その成果もあり、DONGURIのメンバーは他社に比べて圧倒的に早く退社ができるようになりました。

デザイン思考の基本は、観察とヒアリング。導線設計で組織の「脱属人化」


今回は弊社DONGURIを事例に、仕事の属人化の問題を解決するために実施した取り組みを紹介させていただきました。

では、実際にデザイン思考によって組織を改善しようとする場合、どうすればいいのでしょうか。まず、あなたが最初に取り組むべきことは、メンバーの行動を観察し、ヒアリングを行うことです。

「なぜ問題が起きているのか?」「なぜそのような行動を起こしたのか?」「何が根本的な問題を生み出す導線となっているのか?」を考えてみましょう。

人の行動の導線に着目したデザイン思考という発想法は、数値に着目するだけではたどり着けない改善方法を導くことができ、現状のメンバーに合った組織設計の実現が可能です。ぜひ、デザイン思考を用いて、組織改革を実践いただければ幸いです。

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